かつて「ローリング族」が社会問題となった大垂水峠に、新たなライダーの憩いの場が存在する。

2026年6月24日

バイカーズベーカリーは、デザイナーを本業とするひとりの男の理想を具現化したもの。そこには「世界一のバイク生産国・日本」にあるべき、真のライダーズコミュニティが描かれていた。

負の歴史が刻まれた「かつての聖地」大垂水峠
神奈川県側の高尾山口と山梨県の相模湖を繋ぐ、国道20号線・大垂水峠。 1980年代から90年代初頭にかけて、ここは「走り屋の聖地」と呼ばれ、週末ともなれば昼夜を問わず300台を超えるバイクがローリング走行を繰り返していました。

しかし、多発する死亡事故や地域住民とのトラブルは深刻な社会問題となり、警察や行政は二輪通行止めや段差舗装(グルービング路面)で対処。2000年代初頭にバイクブームが去るとローリング族も姿を消し、大垂水峠に残されたのは、不快な段差舗装と、バイクの残骸、そしてドライブインの廃墟だけでした。圏央道の開通も重なり、ここは完全に「過去の場所」と化していたのです。

しかし今、この大垂水峠に再びライダーたちが集まり始めています。

突如現れたライダーのオアシス「バイカーズベーカリー」
日曜日の大垂水峠。廃墟が並ぶうらぶれた景色のなかに、突如として洗練された美しい建物が現れます。それこそが、再びこの峠に活気をもたらしたライダーズカフェ「バイカーズベーカリー」です。

100台は駐められるであろう広大なスペースには、スーパースポーツ、アメリカン、クラシックなど、あらゆるジャンルのバイクがズラリ。ソロ、ペア、グループと、老若男女のライダーたちが思い思いの時間を過ごしています(※営業は土日・祝日のみ)。

家族3人で切り盛りする、リアルライダーの理想郷
オーナーの岸さんは、普段は会社員(デザイナー)として働く生粋のリアルライダー。お店の代表は奥様が務め、週末になると岸さんも店頭に立ち、家族で店を切り盛りしています。

「ここに辿り着くまでに3年半位かかったんです。都内の会社から1時間圏内で通える物件を探して、最後に出てきたのがここ。バイクの聖地であった事は知っていたので、通ってた人が戻ってきてくれるんじゃないかっていう思いもありました」

幼少期を福岡の自然豊かな環境で過ごし、ベトナムへの駐在経験もある岸さんは、以前から東京脱出を考えていたと言います。さらに「パン屋さんになりたい」という娘さんの夢も重なり、2019年7月、この地にお店をオープンさせました。

「日本のバイクを取り巻く“よじれ”を直したい」
岸さんがこの店に込めた想いは、単なる「お洒落なカフェ」に留まりません。背景にあるのは、日本のバイク文化に対する強い危機感です。

「日本はあまりにもバイクに冷たい。ベトナムではみんながバイクに日常的に乗っている感じがすごく楽しかった。バイク生産国である日本に、それがないのが寂しい。それに、バイク乗りもマナーが悪い人が多い。この状況がすごく気に食わないんですよ。そういうこの国の『よじれ』を直したい」

そんな熱い想いを持つ岸さんの行動は、随所に表れています。 通りすがりの外国人ドライバーにも親切丁寧に対応し、店内には無料の貸し出し工具まで完備。そして奥様と娘さんが焼き上げるこだわりのパンと、厳選されたコーヒーの味は瞬く間に口コミで広がり、今やSNSのフォロワー数は3万人を超える人気店となっています。

「コンセプトは癒しです。大垂水と言えばやんちゃなライダーがいた場所って言うイメージを変えたくて。みんながバイクについて、ゆっくり語り合えるコミュニティ。今の大人たちって、人とコミュニケーションする場がないんですよ。でも、ここに来るとみんながすぐ友達になれるんです」

地元との共生、そして「大垂水からバイク乗りの考え方を変える」
かつてのギャラリーコーナーを、今のツーリングライダーたちが心地よさそうに通り過ぎてゆく。驚くべきことに、この店舗の前の道路には、あの不快な「段差舗装」がありません。

実は岸さん、騒音対策とライダーの安全のために自ら国土交通省と交渉し、段差を撤去してもらったのです。それが実現できたのも、地元住民との深い信頼関係があるからに他なりません。

「僕が1番大事にしているのは**『地元の人に迷惑をかけない』こと。一緒に米を作ったり味噌を作ったり、今はとても関わり合いが深いです。 昭和のバイクブームにここを戻す気は一切ない。地元の人や環境、自然や動物たちを脅かすような走りをしていた過去を捨てて、新しい世代に切り替わって欲しいと言う願いがあります。『大垂水峠からバイク乗りの考え方をひっくり返したい』**それが最終目標です」

編集後記:これからの二輪業界が目指すべき姿
かつて暴走行為で地域を震撼させた大垂水峠が、今や地元の賛同と協力を得ながら、クリーンな「ライダーの聖地」として息を吹き返しています。

「バイカーズベーカリー」が提示する、地域を愛し、地域に愛される持続可能なコミュニティのあり方。これこそが、これからの日本の二輪文化、そしてすべてのライダーが模範とすべき「未来の姿」ではないでしょうか。

お近くをツーリングの際は、ぜひおいしいパンとコーヒー、そして温かいコミュニティを体験しに足を運んでみてください。

【店舗情報】

店名: バイカーズベーカリー(BIKER'S BAKERY)

場所: 国道20号線・大垂水峠(高尾山口〜相模湖区間)

BIKERS BAKER🌱(@bikersbakery) • Instagram写真と動画

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